横浜地方裁判所 昭和61年(ワ)2009号 判決 1988年10月14日
原告
佐賀絵美子
右法定代理人親権者母
室井久美子
右訴訟代理人弁護士
須賀正和
被告
学校法人湘南学園
右代表者理事
前場利通
右訴訟代理人弁護士
浅井利一
同
土生照子
同
西嶋勝彦
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年八月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する被告の答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は、学校法人であって、湘南学園高等学校、同中学校、同小学校、同幼稚園、同梶原幼稚園の各私立学校(いずれも校長又は園長は訴外宗政喜)を設置している。
原告は、昭和五五年四月右湘南学園小学校(以下「学園小学校」という。)に入学し、それ以来、毎年進級し、昭和六一年三月同校所定の全課程を終了し、同校を卒業した。
2 被告は、その設置にかかる右各学校に在学する生徒、児童らとの間の在学契約関係の基本約款として、学校教育法に基づく学則を制定している。そして、原告は、学園小学校に入学した際、被告との間で、右学則を基本とする在学契約を締結したところ、被告の学則には、次のような規定がある。
(一) 「本校の卒業生は卒業年度第一学期開始時期に限り本学園中学校に無考査入学することができる。なお引続き在園するときは高等学校へも無考査入学ができる。」(学園小学校学則二六条)
(二) 「本学園の小学校を卒業したものは、その年の第一学年第一学期開始時に限り無考査で入学を許可する。」(湘南学園中学校学則一一条二項)
3 右学則における無考査入学の規定は、湘南学園の沿革上の特殊性に基づくものである。
すなわち、湘南学園は、父兄と教師が共同して、その経営をするという特殊の形態の学園であり、その建学の精神と教育の理想を実現するため、一貫教育の実施の理念から、湘南学園中学校(以下「学園中学校」という。)は、学園小学校の卒業生を無考査で入学させる旨の特権を明示して右のように規定した。
このため、父兄は、経済的負担に耐えて、湘南学園幼稚園、同小学校に子弟を預け、学園小学校、同中学校の一貫教育を信頼して子弟を進学させてきた。
4(一) しかるに、被告の設置する湘南学園の園長で理事を兼ねる宗政喜(以下「園長」という。)は、従前の方法に相違し、昭和六〇年六月ころ開催の学園小中高合同主任会議における後記方針に従い、昭和六一年三月の学園小学校卒業予定者中の学園中学校進学希望者全員(以下「内部進学者」という。)に対し、外部からの受験者(以下「外部進学者」という。)の入学試験期日と同一の昭和六一年二月三日に外部進学者に対すると同一の入学試験を行い、その結論に基づき、学園中学校への入学の許否を決定し、各受験者に対し、同月四日付文書をもって合格、不合格の通知をした。
なお、右合同主任会議における方針は、昭和六一年度学園中学校への内部進学基準としては、進学のための考査を行い、右考査において五〇〇点満点中一〇〇点以上を得点した者を合格として入学を許可し、一〇〇点未満の得点者を不合格として入学不許可とするものであった。
(二) そして、被告の園長は、原告に対し、入学不許可の処分(以下「本件処分」という。)をとり、原告は、昭和六一年二月四日から数日後に不合格の通知を受領した。
5 しかし、本件処分は、故意又は過失により、原告の権利を侵害した違法な処分である。
(一) すなわち、原告は、学園小学校の入学に際し、被告側から学則に基づいて学園小学校卒業後は無考査で確実に学園中学校に進学しうる旨を明示されて、在学契約の締結を勧誘されたので、右無考査入学という在学契約上の権利、利益があるものと信じて右在学契約を締結して、学園小学校に入学した。
(二) 被告の園長は、原告に対し、考査を行い、本件処分をすることができないことを知り、又は必要な注意を怠らなければ知りえたものであるのに、あえて、右学則に違反して、原告に対し、考査を行い、本件処分をした。また、本件処分は、原、被告間の右在学契約及び信義則に違反するものである。
(三) 原告は、本件処分により、学園中学校に無考査で入学しうる在学契約上の権利及び信義則上の期待権を侵害された。
(四) 以上のとおり、被告の園長は、被告の理事であって、被告の職務の執行として本件処分に及んだから、被告は、民法四四条一項により、本件処分によって原告が被った損害を賠償する義務がある。仮にそうでないとしても、被告の園長は、被告の被用者であって、被告の職務の執行として本件処分に及んだから、被告は、民法七一五条により、本件処分によって原告が被った損害を賠償する義務がある。
6 原告は、本件処分により、次の損害を被った。
原告は、本件処分後、被告に対し、再三にわたり、学則に基づいて学園中学校に進学させることを求めたが、被告からこれを無視されたため、やむなく地元の公立中学校に入学した。その結果、原告は、学園中学校に進学する期待を打ち砕かれ、学園小学校の六年間に得た数多くの友人を失い、学園中学校に進学できない無能力者という烙印を押され、耐え難い屈辱を味わい、精神上多大の苦痛を被った。原告の右精神上の苦痛に対する慰藉料の額は三〇〇万円が相当である。
7 よって、原告は、被告に対し、右慰藉料三〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六一年八月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告の認否
1 請求の原因1、2の事実は認める。
2 同3の事実は不知。
3 同4(一)の事実は否認する、同(二)の事実は認める。
4 同5、6の事実は争う。
三 被告の主張
1(一) 学園中学校学則一一条二項にいう「無考査で入学を許可する。」の趣旨は、学園小学校の卒業者を無条件で学園中学校に入学することを許可する趣旨のものではない。右事実は、原告が学園小学校入学の際に配付された入学案内(乙第二八号証)、募集要項(乙第二九号証)にも、無条件入学を明示していないことからも明らかであり、また、口頭でも右無条件入学の説明がされたことはない。
(二) 学則及び在学契約は、当該私立学校の学校運営と教育の実態に即して合理的に解釈されるものであるから、原告主張の学園中学校学則一一条二項及び学園小学校学則二六条所定の無考査入学とは、内部進学者に対しては、外部進学者に対して行う選考、すなわち、入学試験による選抜を行わずに入学を許可するという趣旨のものである。
そして、被告がいかなる基準で内部進学者を学園中学校に進学させるかは、学校自治の範囲内で、学校の教育上の裁量に属する事項である。
(三) 被告は、従前から内部進学者については、学力不足の者らに対し他校への進学を勧め、その後一〇年以上前から小学校卒業直前の毎年二月に学力判定テストを行い、その結果、学力上、中学校の教科に適応できないと認めた者に対し他校への進学を勧め、生徒側もこれに応じてきた。
(四) 被告は、昭和六一年二月三日同年度の学園中学校への原告を含む内部進学者に対し、学力判定テスト(以下「本件テスト」という。)を行った。
2 ところで、本件テストは、外部進学者に対して実施する入試選抜試験とは、その性格を異にするものであり、これをもって入学試験とはいえない。
学園中学校においては、昭和四〇年後半から外部進学者の受験者数、入学者数が増加し、入学後の学力が高まり、昭和五四、五五年ごろからは、内部進学者中、右学力判定テストの成績が低かった生徒が中学校の授業について行けず、中途退学をし、他校に転校せざるをえない生徒がでるようになった。
3 仮に被告における内部進学者に関する決定が在学契約の変更に当るとしても、その変更は、教育目的に従った合理性と正当性を有し、かつ、生徒側にその旨を周知させた場合には、生徒側に不利益を与えるものではなく、有効である。
4 被告が内部進学者を学園中学校に進学させるかどうかについて教育上の配慮をし、また、生徒側に対し、在学契約の変更に当る事項を周知した経過は、次のとおりである。
(一) 被告は、右2記載のような状況から、昭和六〇年六月一〇日開催の小中高合同主任会議を初めとして、数回にわたり話合いをし、その結果、昭和六一年度の学園中学校への内部進学者については、本件テストで総得点(五〇〇点)の二割(一〇〇点)未満の得点の者には学園中学校への進学を認めないこととした。そして、学園小学校においては、昭和六一年一月一八日まとめのテストを実施し、右テストで少なくとも四割程度の得点をとらなければ、本件テストで二割以上の得点をとることが困難とみられたため、右まとめのテストで著しく低い得点(四割程度以下の得点)の者については、他校への進学を勧めることとした。
(二) 被告は、これより先昭和六〇年七月八日学園中学校、同高等学校の主事が出席して、学園小学校六年生の父母を対象とした進学説明会を開催し、本件テストで総得点(五〇〇点)の二割相当の一〇〇点以上の得点をしなければ、学園中学校への進学は認められない旨を説明した。また、学園小学校の各クラスは、右の趣旨を徹底させるため、同年七月九日付の学園通信でその旨を通知し、更に、同年七月一五日及び同月一六日の個人面談でもその旨を説明した。
被告側は、原告の母室井久美子(以下「久美子」という。)に対し、同年六月中及び同年七月一五日の各個人面談で原告の学力が不足していることを指摘し、同年一二月一四日の個人面談で、原告の成績では本件テストで一〇〇点以上の得点をとることが困難である旨を説明した。
5 昭和六一年一月一八日実施されたまとめのテストにおいて、原告は、総得点(四〇〇点)の三七パーセントの一四八点の得点であったため、被告側は、同年一月二〇日原告の母久美子に対し、他校への進学を勧めたが、同人は、これに応じなかった。
次いで、同年二月三日実施された本件テストにおいて、原告は、総得点(五〇〇点)の二割を下回る九七点の得点であった。なお、二割未満の得点の者は、原告を含め五名であった。
その結果、被告は、原告を学園中学校への進学の推薦をしない旨を判定し、原告に対し、同年二月四日付通知書をもってその旨の通知をした。
6 以上のとおり、被告が学園中学校への進学の基準を定めて入学の許否を決定することは、被告の裁量の範囲に属する合理的なものである。そして、原告は、本件テストの結果によっても、学園中学校に進学することが可能な学力を有しなかったから、被告の本件処分は、教育的配慮を尽した合理的なものであり、何ら違法な点はない。
四 被告の主張に対する原告の認否
1(一) 被告の主張1(一)第一段の事実は認める。同第二段の事実は争う。
(二) 同1(二)、(三)の事実は不知。
(三) 同1(四)の事実のうち、被告が実施した本件テストが学力判定テストであることは否認するが、その余の点は不知。
(四) 同2の事実は争う。
(五) 同3の事実は争う。
(六) 同4(一)の事実のうち、被告が昭和六一年度の学園中学校の内部進学者について試験の得点が被告主張の基準に達しない者は学園中学校への進学を認めない旨の決定をしたことは認めるが、その余の点は争う。
(七) 同4(二)の事実のうち、被告側が被告主張のような進学説明会、個人面談をしたことは認めるが、その余の点は争う。
(八) 同5の事実のうち、原告が昭和六一年一月一八日実施のまとめのテストにおいて総得点(四〇〇点)の三七パーセントの一四八点の得点であったことは認めるが、その余の点は争う。
(九) 同6の事実は争う。
2 被告が昭和六一年度の学園中学校の内部進学者に対して実施した入学試験は、学則に定める考査に該当する。
すなわち、右試験を受けた生徒は、入学試験のための願書を提出し、また、被告は、右試験の総得点(五〇〇点)中一〇〇点以上の得点をとることのみを合格の基準としていた。更に、被告は、学園中学校名義で、受験生に対し、合格通知書、入学試験選考結果通知書の表示のある文書を発行している。そして、学園小学校側は、本件テストを、学力判定テストとして、主体的に利用した形跡は全くない。
第三 証拠<省略>
理由
一1 請求の原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
2 <証拠>を総合すれば、学園小学校学則二六条、同中学校学則一一条二項所定の無考査入学の規定は、被告が設置する湘南学園の沿革上の理由に基づくものであること、すなわち、湘南学園は、昭和八年四月父兄有志の話合いにより創設され、父兄と教師とが共同して経営するという形態の学園であって、健全、明朗で個性豊かな有為な人間を育成するという建学の精神と教育の理想を実現するため、小、中学校を通じての一貫教育を実施するという理念を有していたこと、そこで、学園中学校は、主として学園小学校の卒業生を無考査で入学させる方針のもとに右のような無考査入学の規定を設けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二1 <証拠>を総合すれば、被告の園長は、昭和六〇年中、学園高等学校、同中学校、同小学校の各主事らと協議のうえ、昭和六一年度の学園中学校への内部進学者に対しては、外部進学者の入学試験期日と同一の昭和六一年二月三日に、その受験者に対すると同一の入学試験問題による試験を行い、その結果に基づき、学園中学校への入学の許否を決定し、各受験者に対し、同年二月四日付学園中学校名義の合格通知書又は入学試験選考結果通知書と題する書面をもって合格、不合格の通知をしたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 そして、被告の園長が原告に対し、入学不許可の本件処分をし、原告は、昭和六一年二月四日の数日後に右入学試験選考結果通知書により不合格の通知を受領したことは、当事者間に争いがない。
三原告は、本件処分が故意又は過失により、原告の権利を侵害した違法な処分である旨主張するので、検討する。
1 本件処分に至る経過について見る。
前記事実と<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 原告の母久美子は、昭和五五年四月学園小学校に原告を入学させた際、被告側から学則に基づいて学園小学校卒業後は学園中学校に無考査で進学しうる旨の説明を受け、右のような利益があるものと考えて、被告との間で、在学契約を締結し、原告を学園小学校に入学させた。
(二) 被告の設置する湘南学園は、昭和八年四月小学校と幼稚園を開設し、昭和二三年中学校を、昭和二五年高等学校をそれぞれ新設した。そして、湘南学園は、昭和二六年三月一〇日神奈川県知事の許可を得て、寄附行為により学校法人となった。
湘南学園においては、中学校は当初小学校の卒業生を受け入れることを目的としたが、その後の発展に伴い、高等学校が併設され、中高六年間の一貫教育をすることが意識され、その後、これが強調され、昭和五四年から右中高六年間の一貫教育が実施されるに至った。このため、中学校においては、高等学校の各教科の学習に必要な基礎学力を養うことが要求されるようになり、ひいては、小学校においては、中学校に進学する生徒に対して基礎学力を身につけさせる教育をすることが目標とされるようになった。
なお、本件処分当時における湘南学園の学内機構を図示すると、別紙のとおりである。
(三) 湘南学園においては、その発展に伴い、昭和五四年ころから高等学校への外部からの進学希望者が毎年七〇〇名を超え、昭和六一年度に九六五名に達し、中学校への外部からの一次進学希望者は、昭和五九年度一四四名、昭和六〇年度一五八名、昭和六一年度四五〇名、昭和六二年度五八一名となった。
このような状況から、学園中学校においては、当初は内部進学者の成績は外部進学者の成績に比し、やや劣る程度であったが、昭和五九年ごろからは、その程度の差が顕著になってきた。たとえば、昭和六〇年度において、外部進学者の合格点は一次試験四〇〇点満点で一七八点(補欠一五八点)であったところ、内部進学者六七名のうち、一七八点以上の得点をした者は一三名、一五八点以上一七七点までの得点をした者は八名にすぎなかった。また、昭和六一年度において、外部進学者の合格点は一次試験五〇〇点満点で二五三点(補欠二四三点、繰上げ合格二〇〇点)であったところ、内部進学者五四名のうち、二五三点以上の得点をした者は、一名、二〇〇点以上二五二点までの得点をした者は一〇名であった。
(四) 右のような状況から、学園中学校においては、成績の極端に低い内部進学者を受け入れることが中学校全体の教育計画に支障を来たし、かつ、本人も途中で退学し、又は他校に転校する結果となること等から、昭和五五年ごろからは、学園小学校に対し、右のように成績の低い者を進学させないように要望してきた。
このため、学園小学校においては、昭和五五年ごろから、学力判定テストの結果をみるまでもなく、学園中学校の授業について行けないと思われる者に対して他校への進学を勧め、また、昭和五八年からは外部進学者に対すると同一の試験問題による学力判定テストで総得点の二割以上の得点ができない者については、個別に面談し、学習指導をしてきた。
(五) 湘南学園においては、昭和六〇年六月一〇日開催の小中高合同主任会議を初めとして数回の会議をし、その結果、昭和六一年度の学園中学校への内部進学者については、本件テストで総得点(五〇〇点)の二割(一〇〇点)未満の得点の者には学園中学校への進学を認めない旨を決定した(被告側において右のような決定をしたことは、当事者間に争いがない。)。
他方、学園小学校においては、昭和六〇年六月二七日職員会議において、まとめのテストの実施案を検討し、右テストに本件テストの結果を加味して、学園中学校への進学推薦の資料とする旨を決定した。学園小学校は、その後昭和六一年一月一八日右まとめのテストを実施したが、その際、右テストで四割程度の得点をしなければ、本件テストで二割以上の得点をすることが困難であるとみられたため、右まとめのテストで著しく低い得点(四割程度以下の得点)の者については、その段階で他校への進学を勧めることとした。
(六) 学園中学校、同高等学校の主事は、これより先昭和六〇年七月八日学園小学校六年生の父母を対象として進学説明会を開催し、本件テストで総得点(五〇〇点)の二割程度の一〇〇点以上の得点をしなければ、学園中学校への進学は認められない旨を説明した。また、学園小学校の各クラスは、右の趣旨を徹底させるため、同年七月九日付学園通信でその旨を通知し、また、同年七月一五日及び同月一六日の個人面談でもその旨を説明した(被告側が右のような進学説明会、個人面談をしたことは、当事者間に争いがない。)。
(七) 原告の成績とこれについての学園小学校側の対応は、次のようなものであった。
(1) 原告は、昭和六〇年五月一日、同月二日の両日にわたり実施された学園小学校五、六年生対象の学力検査(四教科)について偏差値平均42.5で六年生八四名中七二位であった。
昭和六〇年度に原告が属していた学園小学校六年すいせい組の担任教師である訴外藤野和夫(以下「担任教師」という。)は、同年六月の個人面談で原告の母久美子に対し、右学力検査の結果によれば、原告が算数の基本的学力に不足し、学園中学校の進学に問題があるので、進路について考えておかれたい旨を述べた。
次いで、担任教師は、同年七月一五日の個人面談でも原告の母久美子に対し、原告が算数、社会の基本的学力に欠けるので、夏休みの補修に参加されたい旨を述べ、原告は、右補修(一二日間)に参加した。
更に、同年一〇月一五日開催された学級懇談会において、各父兄は、学園中学校進学のため、総得点五〇〇点のうち一〇〇点以上の得点をするように頑張らせる旨を確認し合った。
(2) 原告は、昭和六〇年一一月一四日実施された四教科予想問題のテストにおいて学園小学校六年すいせい組四二名中二七位であったが、算数では二割程度の得点であった。
担任教師は、同年一二月一四日の個人面談で、原告の母久美子に対し、右テストの結果について話し合い、本件テストにおいて一〇〇点以上の得点をしなければ、学園中学校に進学できないことになる旨を述べた。そして、原告は、その後の冬休みの補修に参加した。
(3) 学園小学校は、昭和六〇年一一月末まとめのテストの実施を具体化し、六年生に対し、同年一一月三〇日付学級通信をもって右テストを昭和六一年一月一八日に実施し、総得点が四教科合計四〇〇点である旨を通知し、また、昭和六一年一月八日付小学校だよりをもって右テストの結果が学園中学校進学に関する資料の一つとなり、かつ、学園中学校の入学試験に六年生が参加する旨を通知した。
更に、学園小学校は、六年生に対し、昭和六一年一月一四日付学窓をもって、まとめのテストでは総得点四〇〇点中二〇〇点の得点をするように求めた。
原告は、右のようにして実施されたまとめのテストにおいて総得点四〇〇点のうち四割未満の一四八点の得点であった(右事実は、当事者間に争いがない。)。担任教師は、同年一月二〇日の個人面談で原告の母久美子に対し、原告の右テストの結果からみて、原告が本件テストで一〇〇点を超える得点をすることは困難であるので、公立中学校への進学を考えるように説得した。
(4) 原告は、昭和六一年二月三日実施された本件テストにおいて総得点五〇〇点のうち二割未満の九七点の得点であり、内部進学者六一名中五八位であった。なお、右内部進学者のうち右二割未満の得点の者は、原告を含め五名であった。
(5) 学園小学校で昭和六一年二月五日開催された職員会議は、原告については右まとめのテスト及び本件テストにおいて、いずれも得点が基準に達しないため、学園中学校への進学の推薦をしない旨の判定をした。そこで、被告の園長は、同日原告に対し、本件処分をすることとし、原告の母久美子に対し、同年二月四日付で、外部進学者に対する通知書である学園中学校名義の入学試験選考結果通知書と題する書面をもって、その旨を通知した。
(八) なお、学園小学校においては、学園中学校への内部進学者については、本件テストに関し、外部進学者に対すると同一様式の願書を配付して提出させたが、氏名、生年月日、性別、現住所、六年次の出席番号のみを記載させ、学歴、保護者、家族欄の記載を不要とし、また、受験料を徴収せず、面接試験を実施せず、テストの結果を保護者宛に通知した。また、右通知については、学園中学校名義の書面が使用され、学園中学校への進学を推薦された者に対しては合格通知書と題する書面が送付され、右進学を推薦されなかった者に対しては入学試験選考結果通知書と題する書面が送付された。
以上の事実が認められ、<証拠>は、前掲各証拠に対比して、にわかに信用することができず、<証拠>をもって右認定を覆すに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2(一) 学校は、国公立の学校であると私立学校であるとを問わず、その施設を管理運営し、教育を実施するために必要な事項を学則、その他の内部規律により一方的に制定しうるものである。ところで、私立学校は、独自の校風と教育方針により、社会に対し、その存在価値を認められる傾向にあるから、学則、その他の内部規律を定めるにも創立以来の建学の精神がその指導理念となり、これを具体化するように配慮すべきものといわなければならない。しかし、他面、学則は、私立学校の建学の精神に基づく指導理念のほか、その学校における教育の実態に即して合理的に解釈されるものであり、その学校における入学、進級、同一法人の設置する上級学校への進学(推薦)については、社会通念上合理性を認めえないものでない限り、学校長の裁量権の範囲内にあるものというべきである。
(二) 学園中学校学則一一条二項の「本学園の小学校を卒業した者は、……無考査で入学を許可する。」との規定は、学園小学校の卒業者を無条件で学園中学校に入学することを許可する趣旨のものではなく(この点は、当事者間に争いがない。)、また、学園小学校学則二六条の「本校の卒業生は……本学園中学校に無考査入学することができる。」との規定も同趣旨のものと解すべきである。
そして、前記認定事実によれば、右各学則の規定は、内部進学者に対しては外部進学者に対して行う選考、すなわち、入学試験による選抜は行わないで入学を許可する趣旨のものであり、本件テストは、もとより右入学試験には該当せず、学園中学校においては、内部進学者で、学力上、右中学校の教科に適応できないと認められる者については入学を許可しない趣旨のものであると認めるのが相当である。また、右認定事実によれば、学園小学校においては、本件テストを実施するまでに、内部進学者及びその保護者、特に成績不振の生徒らに対し、十分な教育指導をしたものであり、また、本件テストの内容、方法は、著しく教育的配慮を欠いたものとはいえず、更に、原告に対する成績の評定も公正で妥当なものであったと認めるのが相当である。
(三) 以上述べたところによれば、園長が原告に対し本件処分をしたことは、社会通念上合理性を認めることができ、園長の教育的裁量権の範囲内にあるものであって、原告の権利を違法に侵害したものではないというべきである。
3 したがって、原告の前記主張は採用することができない。
四以上の次第であって、被告は、原告に対し、不法行為上の責任を負わないものというべきである。
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は、失当として棄却すべきであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官佐藤榮一)
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